発光ダイオードの基本的な仕組みを押さえつつ、舞台照明などの専門的分野で基礎となる仕組みに関しての知識や現状の認識を共有する。例えば、RGB光で作る「白」の基準/定義。灯体自体の反応の限界=速度や分解能的な最小単位に関する現状(16bit制御の場合、制御系が正確なデータを送れば灯体側の回路は何処まで追従できるのかとか・・・)。調光カーブの決め方=デザインの基準など、普段使っている際に抱く疑問に関して、実際に開発に携わられている専門職の講義と質疑応答、ディスカッションを行った。
藤本「LEDの照明が入ってきつつありますが、それを比較検討するためにどういう条件ですればいいかを話し合ううちに、LEDと、それを制御するDMXやArtnetについて講師を招いて基礎からやった方がいいのではないかという話になりました。例えば白っていう光がありますが、どういう基準で白が決まっているのかが照明家にもよくわかっていないんです。
今日はLEDの話を(株)エルムの桐原弘さん、(株)カラーキネティクス・ジャパンの井出英典さんに伺いたいと思っています。ではお願いします。」
株式会社エルム
取締役 桐原 弘 氏
◆LEDの仕組み
桐原「LED照明をつくるにあたってまずはLEDチップ、あるいはモジュールをメーカーから購入します。モジュ―ルとは蛍光体があって、外側にシリコン樹脂の白いものがあって両端に電極があるものですね。このとき実際に光るのは蛍光体の下にあるLEDチップです。最近の白色LED電球はモジュールが1つ入っているだけでなく、セラミック基盤に複数の小さなチップが並んでいて、それを丸形の蛍光体で覆っているものもあります。COB,chip on boardというんですが、小さなチップを並べた方が発光効率がいいんですね。」
岩村「このとき蛍光体がないと、どうなるんでしょうか。」
桐原「単純にブルーの光だけになってしまいます。蛍光体はブルーの光を当てることで励起されるんですね。」
桐原「一般的な白色LEDは青色のLEDと黄色の蛍光体で白色を実現しています。蛍光体は1色でつくってあるのが普通なんですが、私共(株)エルムは縞模様をした特殊蛍光体フィルムを開発しました。分離型という言い方をするんですが、黄、赤、緑の蛍光体フィルムを何種類使うか、また幅、厚み、濃度を変えることで、スペクトルの波形がちがうものをつくることができました。例としては美術館・博物館用、太陽光、美肌用、パン用、青果用、肉用などがあります。このチップをつくれるようになって、Raには含まれない演色性も高められるようになりました。」
藤本「演色性があがってきているというのはどういう判断によるんですか?」
桐原「分光計を使って測定した数値に基づいています。基準となるのはやはり太陽光ですね。」
藤本「それはつまり太陽の下が一番きれいに見える、という考え方によるものだと?」
桐原「そうですね。いま私たちは数値に基づいてスペクトルをカスタマイズすることはできるんですが、例えばもう少し緑の波長があった方がいいだとか、使っていただいている皆さんの声を聞きたいというのはありますね。」
◆白の話
藤本「ハロゲンならハロゲンで波長は決まっていたものが、LEDはRGB値を調整することで白をコントロールできるようになりました。そこに白の基準、指標のようなものは存在するのか。また、もし今ないのなら、誰かがそういう基準をつくろうとしているのかどうかを知りたいです。」
桐原「そういう動きはないかもしれません。ここに日亜の仕様書があるんですが、納品するものにもこれだけのランクがあるんですね。」
※日亜の仕様書 発光ダイオード(LED)/日亜化学工業株式会社 色度図
カラーキネティクス・
ジャパン株式会社
取締役 井出 英典 氏
井出「同じ機材でも個体によってRGBフル点灯すると、ちょっとピンクがかったもの、ちょっとブルーがかったものと2種類か3種類の白が存在します。LEDの組織の成り立ちから個体差はでてしまうんですね。しかしそれはRGBの1/256の単位で補正できるレベルの差です。」
藤本「そこでは白というのはその人の見た目の白ということなんですか?」
井出「そうですね、また建築では真っ白の壁というのはほぼゼロなので、純粋な白というのがシビアには求められないというのもあります。なのでRGBフル点灯がすなわち白ということになるかと思います。」
桐原「開発するときの器具設定の上で、数値的に設定するより他はないんですね。」
井出「開発の目標として設定できるのは、太陽光をひとつの基準にして演色性などの面でどれだけ近づけるのか、ということくらいでしょうか。」
岩村「どうやらこれは色の問題ではなさそうな気がしてきました。」
※その後、日亜のデータをあたってみると、以下のアプリケーション・ノートがあった。
日亜化学工業株式会社 LEDアプリケーションノート(PDF)
この中の、1ページ目 3.ホワイトバランスの項の中に、「RGBそれぞれの色度にもよりますが、(x=0.33、y=0.33)付近の白を得るにはR:G:Bの光度比を、おおむね3:7:1にすればよいと言われていわれています。」とあるが、その根拠は示されていない。
—ここで、LEDの調光を実演—
藤本「建築とはちがって、舞台ではつきはじめの1/256段階が見えてしまうのが気になるんです。」
桐原「例えば内部のCPUに細かい分解能を与えることで徐々につけていくことはできるんですが…」
藤本「そうすると例えばカットアウトができない、ということが起こってしまう。」
桐原「その通りです。そこが開発の課題でもあります。」
井出「プラネタリウムの照明では8bitではお客さんの方からつきはじめが気になる、ということで16bitを採用したことがありますが、建築ではほとんど問題になったことはありません。」
藤本「建築では外光がありますからね。そういう意味では、光源がみえてしまうと厳しいのかもしれない。それでは明日は制御系について、タマテックラボの玉田さんから詳しく話をお聞きします。」
主な参加者
- 講師
- 株式会社エルム 取締役 桐原 弘 氏
- カラーキネティクス・ジャパン株式会社 取締役 井出 英典 氏
- 有限会社タマ・テック・ラボ 代表取締役 玉田 邦夫 氏
- 藤本 隆行
- 研究統括
- 岩村 原太
- 共同研究者 京都造形芸術大学 舞台芸術学科准教授
- 筆谷 亮也
- 共同研究者 NPO法人 アトリエ劇研スタッフルーム 照明班
- 魚森 理恵
- 共同研究者 NPO法人 アトリエ劇研スタッフルーム 照明班
- 石橋 義正
- 研究協力者 京都市立芸術大学 構想設計 准教授
- 粟津 一郎
- 研究協力者 ダムタイプ
- 吉田 一弥
- 研究協力者 NPO法人 アトリエ劇研スタッフルーム 照明班